AI音楽『Mercury Kiss』制作記録|水星の温度差からCOSMOS初のMVが生まれるまで

寒色の光の中に座る水星のメルと、暖色の光を背負って遠くに立つ太陽を象徴する男性を描いたMercury Kissのキービジュアル AI音楽

『Mercury Kiss 〜気まぐれな引力〜』は、天体をモチーフにしたAI音楽シリーズ『COSMOS The Lost Chronicles』の第5曲目です。

ただし、MVとして作った順番では第1作。

今振り返ると、この少し変わった順番が『Mercury Kiss』という作品をよく表している気がします。

最初から「水星を女性キャラクターにして、気まぐれな男との恋愛を描こう」と考えていたわけではありません。

さらに言えば、COSMOS自体も最初から「天体を擬人化するシリーズ」として始めたものではありませんでした。

出発点にあったのは、もっと音楽制作寄りの疑問です。

AI音楽で、ただ音を重ねるのではなく、それぞれの楽器に違う役割を持たせて厚みを作れないか。

そこから始まった実験が、何曲か作るうちに天体の物語になり、やがて人物を持ち、MVになっていきました。

この記事では完成したMVの解説というより、水星という天体が、曲になり、女心になり、キャラクターになった過程を振り返ります。

COSMOSは、天体擬人化から始まったわけではない

最初に考えていたのは、AI音楽で音の厚みをどう作るかでした。

楽器を増やしても、それぞれが似たような旋律を鳴らしているだけでは、自分が欲しい厚みにはならない。

そこで発想を逆にしました。

使う楽器を減らす。

その代わり、それぞれに違う役割を持たせる。

この実験から、ピアノと歪んだベースを対立させるような構成が少しずつ固まっていきました。

そして「次は何をテーマにするか」と考えたときに出てきたのが、星です。

月、惑星、星座。

最初から範囲を厳密に決めるのではなく、星に関するものならやってみよう、というくらいの始まりでした。

そこから、月『Dark Side of the Orbit』、火星『Dry Ocean』、こと座『Dissonant Strings』、双子座『Binary Resonance』と進みます。

そして5曲目で、水星にたどり着きました。

『Mercury Kiss』は、COSMOSの入口として作った曲ではありません。

何曲か宇宙を回ったあとで生まれた曲が、結果としてMVシリーズの入口になりました。

最初の水星には、まだ「彼女」がいなかった

水星で最初に考えたのは、太陽との距離でした。

制作時には、水星の昼側と夜側にある極端な温度差を「近づけば燃え、離れれば凍える」という感情へ置き換えています。

高音域を走る冷たいピアノを極寒側。

低音で激しく歪むファズベースを灼熱側。

相反する2つの音をぶつけ、そこへ速いドラムを入れる。

最初にあったのは、水星という天体の極端さを、そのまま感情の起伏へ変換する発想でした。

この時点では、まだ現在の女性キャラクターはいません。

主人公がどんな顔をしているのかも決めていませんでした。

先にあったのはキャラクターではなく、「冷たいピアノと熱いベースをぶつける」という音の構造です。

水星を「気まぐれな男に振り回される女心」に変えた

曲を詰めていく途中で、方向を変えました。

水星の温度差をそのまま熱さと冷たさで描くより、人間関係に置き換えた方が生々しくなるんじゃないか。

今回は気まぐれな男に振り回される女心を
水星と重ねて曲にしようか

ここから現在の『Mercury Kiss』が始まりました。

太陽は「あなた」。

水星は「私」。

近づけば焼かれる。

でも、離れれば寒い。

優しくされても苦しいし、冷たくされても苦しい。

天体の温度差を説明する曲ではなく、恋愛の温度差を水星に重ねる曲へ変わりました。

この方向が決まったことで、水星は単なるモチーフから、少しずつ人間の感情を持ち始めます。

女心なのに、女性には歌わせなかった

次に変えたのが、声です。

最初の案では、女性ボーカルを想定していました。

歌詞も「私」「あなた」という女性視点なので、その方が自然です。

でも、そこで逆のことをやってみたくなりました。

この女心を、中性的な男性が歌ったらどうなるだろう。

歌詞は変えません。

「私」も「あなた」もそのまま。

声だけを、中性的で高い男性ボーカルへ変えました。

最終的な曲は、BPM165、G minor。

高速ピアノ、激しく歪んだファズベース、ドラム、そして中性的な男性ボーカルという構成です。

要素『Mercury Kiss』での役割
歌詞気まぐれな男に振り回される女性視点
ボーカル中性的な男性ボーカル
ピアノ極寒、冷たさ、感情の不安定さ
ファズベース灼熱、執着、逃れられない引力
高速テンポ振り回され続ける焦燥感

完成してから「女性キャラと男性Voを組み合わせよう」と考えたわけではありません。

曲を作る途中で選択を変えていった結果、少しねじれた構造になりました。

このズレが、後にMVを作るときのキャラクター造形にもつながっていきます。

ジャケットでは、いったん人物を消した

曲のコンセプトが人間的になったので、最初はアートワークにも人物を出す案がありました。

中性的な人物の顔を大きく使い、片側を熱、もう片側を冷気で見せるようなイメージです。

でも途中で、それをやめました。

顔はやめよう。
水星の写真で過度な演出はせず、シネマティックライティングで壮大にしよう。

人物を出せば、恋愛の物語は分かりやすくなります。

ただ、その時点では「この曲の主人公はこの顔です」と固定したくありませんでした。

そこでアートワークでは人間を消し、水星のクレーターと光と影へ戻しました。

曲では人間へ寄せる。

アートワークでは宇宙へ戻す。

この行ったり来たりも、今見るとCOSMOSらしい作り方だったと思います。

MVを作るとき、初めて水星に「姿」を与えた

黒と白のツートーンヘアと暖色・寒色の瞳を持つ、水星を擬人化したメルのキャラクター設定シート

ところが、MVを作る段階になると、今度は人物が必要になりました。

ここで、水星の感情に具体的な姿を与えます。

黒と白に大きく分かれた髪。

暖色と寒色を分けた瞳。

ベージュのトレンチコートに、ダメージの入った黒いデニム。

宇宙服のようなSFデザインではなく、現代の街にいても成立する服装にしました。

重要だったのは、水星そのものを人型にすることではありません。

熱と冷、明と暗、近づきたい気持ちと逃げたい気持ちを、一人の人間の中へ入れることでした。

曲を作った時点では、まだ存在していなかった人物です。

先に音があり、そこから比喩が生まれ、声が決まり、その後でようやくキャラクターが生まれました。

比喩だった「太陽」も、一人の男になった

黒い衣装と暖色のリムライトをまとった、Mercury Kissで太陽を象徴する男性キャラクター設定シート

同じことが、相手側にも起きました。

曲の中では「あなた」でしかなかった太陽を、MVでは一人の男性としてデザインしています。

黒を基調とした服装。

髪や輪郭に入る、太陽を思わせる暖色の光。

自信があり、危険そうで、簡単には誰か一人のものにならなそうな人物です。

ここで初めて『Mercury Kiss』は、天体同士の関係を借りた曲から、男女二人の物語として見えるようになりました。

しかも、この男はこのMVだけで終わりませんでした。

後に太陽そのものをテーマにした曲を考えたとき、自分からこう言っています。

ここで太陽いっちゃう?
水星の時、ちらっと出てきた女たらしだけど。

水星の物語を作るために生まれた相手役が、あとから別の天体の主人公候補になりました。

このあたりからCOSMOSは、単発の天体曲を並べるだけではなく、同じ宇宙にいる人物たちの話へ少しずつ変わっていきます。

第5曲なのに、MVでは第1弾になった

こうして『Mercury Kiss』を映像作品にしました。

楽曲としてはCOSMOS第5弾。

でも、MVシリーズとしては第1弾です。

この順番を、あとから無理に整理し直す必要はないと思っています。

曲を作った順番と、映像にしたいと思った順番は違う。

むしろ、そのズレ自体が制作記録です。

水星は最初からシリーズの顔として作った曲ではありません。

何曲か作った中で、「これは人物にして動かしてみたい」と思えた作品でした。

そこからCOSMOSの映像側が始まります。

MVの16:9サムネイルには、「脳髄まで、溶かす」というコピーを置きました。

かなり直接的な言葉ですが、近づけば焼かれるのに離れられない『Mercury Kiss』の感覚を、一行まで圧縮したものです。

完成したMVはこちらです。

縦型では「B型クズ男に狂わされる女。」まで削った

縦型のサムネイルでは、さらに説明を削っています。

「B型クズ男に狂わされる女。」

「B型クズ男に狂わされる女。」のコピーとメルを描いたMercury Kiss縦型動画のサムネイル

かなり俗っぽいコピーです。

でも、ショート動画では「水星の極端な温度差を恋愛へ置き換えました」と説明している時間はありません。

そこで、曲の中にある関係だけを抜き出して、一瞬で分かる言葉にしました。

同じ作品でも、曲、MV、16:9のサムネイル、縦型のサムネイルでは、伝え方がかなり違います。

水星の温度差から始まったアイデアが、最後にはここまで人間臭い言葉になりました。

作った順番は「キャラ→曲」ではなかった

『Mercury Kiss』を振り返ると、最初にキャラクター設定を完成させ、その人物に合わせて曲を書いた作品ではありません。

実際には、かなり逆です。

段階起きたこと
音ピアノとファズベースに違う役割を持たせる
天体水星の極端な温度差をテーマにする
比喩気まぐれな男に振り回される女心へ変更する
声女性視点の歌詞を中性的な男性ボーカルに歌わせる
キャラクターMV制作で初めて水星と太陽に具体的な姿を与える
映像COSMOSで最初のMVとして制作する
世界太陽など、別の天体へ人物関係がつながり始める

生成AIを使った作品制作というと、「どんなプロンプトを書いたか」に目が行きやすいです。

もちろんプロンプトも使います。

でも、この作品で残しておきたいのは、そこだけではありません。

女性ボーカルをやめた。

人物ジャケットをやめた。

そして、いったん消した人物をMVで改めて作った。

AIが出したものをそのまま完成形にするのではなく、作っている途中で何度も意味を変えたことの方が、『Mercury Kiss』では大きかったと思います。

まとめ――水星から始まったのではなく、水星から「動き始めた」

『Mercury Kiss』は、COSMOSの第5曲です。

シリーズ最初の曲ではありません。

最初にあったのも、キャラクターではなく音の実験でした。

そこへ水星の温度差が入り、気まぐれな男に振り回される女心になり、中性的な男性の声が入りました。

さらにMVを作る段階で、水星には女性の姿が与えられ、比喩だった太陽にも男の姿が生まれました。

その太陽は、後になって別の曲へつながっていきます。

だから今では、『Mercury Kiss』は単に水星を擬人化した一曲というより、

COSMOSを「曲のシリーズ」から「人物がいる世界」へ動かし始めた作品だったと思っています。

最初からすべて決まっていたわけではありません。

むしろ、作りながら変わった。

その変化まで含めて、『Mercury Kiss』の制作記録です。

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この記事を書いた人
shin

業務改善・DX支援コンサルタント / Webコンテンツクリエイター。
営業・店舗マネジメントから現場作業まで25年以上の実務経験を持ち、現在はフリーランスとして企業のDX推進(kintone導入やバックオフィス効率化)を支援。

プライベートでは、自身の子供の中学受験・基礎学力向上のために作成した教育系動画をきっかけに、AI技術を用いた音楽や動画制作の探求を開始。

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