怒りって、どうやって曲にすればいいんだろう。
原罪シリーズで「憤怒」を最初に作ったとき、私はそこから迷っていました。
大声で叫べば怒りになるのか。
ギターを重くすればいいのか。
速くして、激しくして、全部壊せば憤怒になるのか。
実際に3回作ってみると、答えは少し違いました。
V1では、怒りが溜まり、限界を超えて決壊する瞬間を作りました。
V2では、その怒りに対象を与え、神聖さへ反逆するZionという人物が生まれました。
そしてV2.5では、怒りも疑念も消えていないのに、証拠が足りないなら相手を裁かないZionになりました。
この記事では、AI音楽で同じ憤怒の曲を作り直すうちに、
感情 → 人物 → 判断 へ変わっていった過程を振り返ります。
V1――そもそも「怒り」をどう表現すればいいのか分からなかった
最初の原罪シリーズで作った憤怒は、
『Rusty Wrath ~憤怒の螺旋~』 です。
Sunoで『Rusty Wrath ~憤怒の螺旋~』を聴く
当時の制作記録を読み返すと、最初から完成形が見えていたわけではありません。
シンフォニックメタル、インダストリアルロック、ハードコア。
いくつか激しい方向を試しながら考えていました。
でも、憤怒だから激しいメタルというだけでは、どうもしっくり来ませんでした。
さらに、自分自身の怒りをそのまま歌にするつもりもありませんでした。
そこで残ったのが、
「溜めと激情」
という考え方です。
最初から怒鳴り続けるのではなく、静かな状態から圧力を上げていく。
ギターやドラム、声のレイヤーを少しずつ厚くする。
そしてサビの直前で一度止める。
その静寂のあと、一気に決壊させる。
歌詞でも、「凍る」「解凍する」「塗り潰す」といった言葉を使い、
感情の温度が変わっていくような構造を考えていました。
V1の時点では、まだZionはいません。
ここで作っていたのは人物ではなく、
怒りという圧力が溜まり、限界を越える現象でした。

V1の原罪シリーズ全体はこちらです。
原罪シリーズ V1をSunoでまとめて聴く
V2――怒りに「相手」を与えた
原罪シリーズを作り直したV2では、憤怒をもう一度別の角度から考えました。
完成した曲が、
『Hallelujah in Fire ~聖なる焦土~』です。
V1では、怒りそのものがどう変化するかを考えていました。
V2では、そこにもう一つ加わります。
「誰が、何に対して怒っているのか」
ここで憤怒の対象になったのが、神聖さや祈りでした。
ゴスペルの大合唱と、90年代ダークV系やハードコア寄りの激しいロックをぶつける。
祈る声がある。
その祈りを押し流すほどの音が来る。
そこで生まれたイメージが、 「祈りをかき消す破壊衝動」 でした。
V1では姿のなかった憤怒が、ここで初めて一人の人物になります。
それが Zion(ザイオン) です。

完成したV2のMVはこちらです。
Sunoでも聴けます。
Sunoで『Hallelujah in Fire ~聖なる焦土~』を聴く
Zionの声だけは、自分から始まった
Zionには、他の原罪キャラクターとは少し違う思い入れがあります。
V2から、SunoのVoice機能を使い始めました。
当時はPersonaと呼ばれていた機能です。
そして、Zionに使っているVoiceの元になっているのは、私自身の声です。
ただし、Zionを自分自身として作ったわけではありません。
むしろV1の憤怒を作っていたときから、
自分の怒りや自分自身をそのまま作品へ持ち込む方向は避けていました。
Zionの人格も、考え方も、物語も私そのものではありません。
それでも、
キャラクターの人格には距離があるのに、歌声の出発点だけは自分にある。
そんな少し不思議な位置にいるキャラクターになりました。
設定や物語とは別の意味でも、Zionに思い入れがある理由の一つです。
V2.5――怒っているのに、爆発しない
さらにその後、原罪キャラクターたちに「その後の時間」を与えるV2.5を作り始めました。
V2.5では、キャラクターを一人で完結させず、
必ず誰かと関わらせています。
Zionの相手になったのは、強欲を担当する Monet(モネット) です。
そこで作った曲が、『切れた声の続き』です。
サウンドは185 BPMのJ-Rock。
高ゲインのエレキギター、勢いよく走るドラム、激しいスネアフィル。
ボーカルも中音域から、サビでは張り詰めた高音へ上がっていきます。
音だけを見れば、かなり攻撃的です。
ところが、そこで歌っているZionはなかなか爆発しません。
誰だ 何を隠した
なぜ今 なぜ俺を見た
証言もない 裁くには早い
火種だけが胸を叩く
怒っていないわけではありません。
むしろ、火種ははっきりあります。
何が起きているのか知りたい。
Monetが何かを隠しているのではないかと疑っている。
それでも、「証言もない。裁くには早い」と、自分で止めています。

V2.5の原罪シリーズはこちらです。
原罪シリーズ V2.5をSunoでまとめて聴く
なぜZionは止まれたのか――以前のMonetを知っていたから
Zionが今回、疑念だけでMonetを裁かなかったことには理由があります。
以前のMonetを知っているからです。
強欲のMonetは、欲しいものをただ欲しがるだけの人物ではありません。
その欲望は非常に強く、他者そのものへ向かうことさえあります。
ところが以前、Monetが名もない人形を前にしたとき、珍しく手を出さなかったことがありました。
棚の奥に残された
名もない人形を覚えている
由来がわかるその日まで
糸にも箱にも触れなかった
欲しいのに、取らなかった。
自分が欲しがっているものが何なのか、その由来や本質を知るまで待った。
Zionは、そんなMonetを見ています。
だから今回の仕草だけを見て、
「Monetなら何かやったに違いない」
と単純に決めることができません。
あの慎重さと今日の仕草
同じ手の中で並ばない
過去に知っているMonetと、今目の前で見たMonetが、きれいにつながらない。
だからZionの頭には、いくつもの仮説が浮かびます。
仕入れか昔の用件か
浮かぶ順から捨てていく
ここが、V2のZionとの大きな違いです。
Monetが「欲しい」で一度止まり、Zionも「疑った」で止まった。
二人とも、自分の原罪を失ったわけではありません。
Monetは今でも欲しがります。
Zionも今でも怒ります。
ただ、衝動の直後に一拍置くようになりました。
「切れた声の続き」を、怒りで勝手に書かない
『切れた声の続き』というタイトルは、そのままZionが抱えている問題です。
Monetの声は途中で切れています。
だから、その先が知りたい。
切れた声の続き
Tell me the rest
知りたい気持ちはどんどん強くなります。
それでもZionは、聞こえなかった部分を自分の想像で補いません。
切れた声の続き
Tell me the rest
だがその先を俺が作るな
ここが、今のZionの一番大きな変化だと思います。
分からない部分がある。
疑わしい。
腹も立つ。
でも、分からない部分を自分の怒りで埋めた瞬間、それは事実ではなく自分が作った物語になる。
だから最後には、
届かないなら
届かないままで置いていけ
まで行きます。
これは、Zionが怒らなくなったという話ではありません。
怒りは残っています。
知りたい気持ちも消えていません。
185 BPMの曲も最後まで走り続けています。
変わったのは、
怒っている自分と、事実として分かっていることを分けられるようになったこと。
だと思います。
3回作って分かった――「憤怒」は大声のことではなかった
同じ「憤怒」を3回作り直すと、その中心はこう変わりました。
| 段階 | 憤怒の中心 |
|---|---|
| V1 | 圧力を溜め、限界で決壊する「現象」 |
| V2 | 神聖さへ反逆し、破壊する「人物」 |
| V2.5 | 怒りを抱えながら、証拠がなければ裁かない「判断」 |
感情を音楽にするとき、
「悲しいからバラード」
「怒っているから激しいロック」
と、感情とジャンルをそのまま結び付けたくなることがあります。
もちろん、それも一つの方法です。
でも今回の憤怒を振り返ると、 感情そのものではなく、その感情の前後で何が起きるのか を考えたときに、それぞれ別の作品になりました。
V1では、 怒りがどう爆発するか。
V2では、 誰が、何に怒るのか。
V2.5では、 怒ったあと、その人物はどう判断するのか。
同じ「憤怒」でも、見る場所を変えれば別の表現になります。
AI音楽で感情をテーマにするときも、
単にジャンル指定を変えるだけではなく、
「その感情の前に何があり、そのあと人物が何をするのか」
まで考えてみると、テーマの使い方はかなり広がると思います。
ORIGINAL SIN / INTERACTIVE
あなたの中で「憤怒」はどれくらい混ざっている?
Zionの「憤怒」は、ただ感情を爆発させる怒りではありません。
傷ついた正しさや許せなさが積み重なり、裁きや制裁へ向かおうとする力です。
では、あなた自身が何かを選ぶとき、心ではどの罪が強く動き、
行動を整えたあとには、どの罪が混ざっているでしょうか。
12の選択から、傲慢・嫉妬・憤怒・大食・強欲・色欲・怠惰・虚栄の8つを、
「心の配合」と「行動の配合」に分けて読み解きます。
まとめ――Zionは、怒りを失ったわけではない
V1では、そもそも怒りをどう表現すればいいのか分かりませんでした。
そこで「溜めと激情」という構造を作り、
怒りが決壊する瞬間そのものを音にしました。
V2では、その怒りに「神聖さへの反逆」という対象を与え、
Zionという人物が生まれました。
さらに、Zionの歌声には、自分自身の声を元にしたVoiceを使いました。
人格は自分ではない。
でも声の出発点だけは自分にある。
そんな少し特殊な距離感も、このキャラクターへの思い入れにつながっています。
そしてV2.5の『切れた声の続き』では、Monetという他者を知ったことで、Zionは疑念だけでは判決を下さなくなりました。
だからといって、憤怒ではなくなったわけではありません。
火種は残っています。
知りたい気持ちも強い。
音も猛烈に走っています。
ただ一つ、聞こえなかった続きを、自分の怒りで勝手に書かなくなった。
3回作った今、Zionの「憤怒」はそこまで来ました。
原罪シリーズを続けて読む
同じ「原罪」を出発点にしていても、それぞれのキャラクターは違う方向へ変化しています。
前の原罪:怠惰 / Belf

次の原罪:傲慢 / Rex

V2.5でZionと関わる人物:強欲 / Monet




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