大食という原罪を最初に作ったとき、考えていたのはかなり単純でした。
何でも食べる。でも、どれだけ食べても満たされない。
V1では、それを一人の底なしの食欲として描きました。V2では、その飢えを数億の蝗へ広げ、世界そのものを食べ尽くす災害にしました。
そしてV2.5では、少し違うことをしています。
食欲は消えていない。食べる力もある。それでも、今は食べない。
他の原罪キャラクターが誰かとの関係を持ち始める中、Beelだけはうまく他者と組ませられませんでした。
でも今振り返ると、その扱いにくさそのものがBeelらしかった気がします。
この記事では、AI音楽で大食を3回作るうちに、悪食から災害へ、そして初めて食べることを保留する異形の存在へ変わっていったBeelの制作記録を振り返ります。
V1――何でも食べる。でも何も満たさない

最初の原罪シリーズで作った大食は、『空虚な狂宴 〜gluttony world〜』です。
Sunoで『空虚な狂宴 〜gluttony world〜』を聴く
サウンドはDark J-R&BとNeo Soul。重いベースの上で、強い女性ボーカルが淡々と食べ続けます。
この頃のコンセプトは、かなり直球の悪食でした。
食べ物だけではありません。
ブリキも、綿も、鉄も、ガラスも、真実も嘘も、愛も夢も欲望も食べる。
そして最後には魂まで噛み砕こうとします。
愛も夢も欲望も
食べ尽くしても
まだまだ足りない
何でも食べられるのに、味がしない。
量を増やしても、対象を広げても、穴は塞がりません。
V1の大食は、食べることそのものより、何を入れても埋まらない空洞でした。
正直、この発想自体は当時好きだったボカロ曲の影響がかなりあります。まだ自分なりのキャラクターとして掘る前の、原罪のイメージをそのまま曲にした段階でした。
V2――一人の飢えを、数億の顎にした

V2で作ったのが、『Million Locusts 〜虚空の顎〜』です。
Sunoで『Million Locusts 〜虚空の顎〜』を聴く
V1では一人の中にあった空腹を、V2では群れにしました。
数億の蝗が空を黒く染め、稲穂も建物も人も、愛も夢も明日の光も食べていく。
サウンドもOrchestral Horror、Avant-Garde Metal、Swarm Noise。180 BPMで、不協和音とブラストビート、大量の羽音のようなノイズを重ねています。
満たされない永遠の Gluttony
慈悲なき群れはすべてを平らげる
世界が空っぽになるまで
ここで大食は、一人の食欲ではなくなりました。
Beelが存在する場所そのものを食べ尽くし、最後には何も残らない。
それがV2で固まったイメージです。
虫嫌いなのに、自分で蝗の地獄を作ってしまった
このV2は、映像制作でもかなり印象に残っています。
私は虫が苦手です。
それなのに、映像では大量の蝗を動かすことになりました。
作っている途中、本当に気持ち悪くなって、吐きそうになるくらいでした。
映像のイメージにあったのは、ヒッチコックの『鳥』です。
とはいえ、昔に見たホラー映画で、作品を細部まで覚えているわけではありません。むしろ子どもの頃に残った、大量の何かに襲われる映像の印象を手掛かりにしました。
鳥を蝗へ置き換え、空を覆う群れ、逃げ場のない圧迫感、画面そのものが黒く埋まっていく恐怖へ広げていきました。
最終的には、自分で作っておきながらかなりきつい映像になり、YouTubeでは成人向けの設定にしました。
完成したV2のMVはこちらです。
食べ尽くしたあとは、真っ白になる
Beelの設定で難しいのは、食べる対象にあまり境界がないことです。
食料だけを食べるわけではありません。
物も、場所も、意味も、その場にあるものを飲み込んでいく。
だからBeelが通ったあとには、豊かな廃墟すら残りません。
最後に残るのは、ほとんど真っ白な世界です。
この性質が、後でかなり困ることになります。
V2.5――Beelだけ、うまく誰かと絡ませられなかった
V2.5では、原罪キャラクターたちに生活感や他者とのつながりを入れていきました。
でもBeelだけは、最後まで相手を置くのが難しいキャラクターでした。
本当は、Rexの王宮の地下あたりに住ませる案も考えました。
ただ、Beelはそこに住み続けるような存在ではありません。
食べ始めれば、地下だけで終わらない。
いずれ王宮も、その周囲も、そこにあるもの全部がなくなってしまう。
他の人物と自然に関係を作るには、設定そのものが異形すぎました。
結果として、V2.5でもBeelは単独です。
でも今は、その孤立も失敗だったとは思っていません。
他のキャラクターと同じように生活圏へ入れられないこと自体が、Beelの異質さを残しました。
『残響はまだ食べない』――満腹にはならない。でも止まった

V2.5で作った曲が、『残響はまだ食べない』です。
V2のBeelは、目の前にあるものを食べ尽くしました。
だからV2.5では、少しだけ柔らかい方向を探しました。
ただ、Beelを普通の人物にすることはできません。
黒い群れは今もそばにいます。
空腹も消えていません。
それでも、灰の中に残った短い声だけは、すぐには食べません。
まだ食べない 分からないまま
一つの声をここに置いて
空腹は消えない
それでも今日は
明日の話を聞いていたい
ここが、Beelにとってかなり大きな変化です。
満腹になったわけではありません。
食欲を克服したわけでもありません。
食べられるのに、今は食べない。
それだけです。
でも、何も残せなかったBeelにとっては、それだけでも十分大きい。
なぜ声だけは食べなかったのか
曲の中に残っているのは、途切れた声です。
「忘れないで」
それだけ残る
Beelには、それが何なのかまだ分かりません。
だから意味を理解したから残したわけではありません。
ただ、分からないまま消してしまうことを一度やめた。
V1では味がしなくても食べました。
V2では世界が空になるまで食べました。
V2.5では、初めて一つだけ、分からないものを分からないまま残しています。
Beelの変化は、何かを理解したことではなく、理解する前に消さなくなったことなのかもしれません。
3回作って分かった――大食は量の問題ではなかった
Beelの大食は、3世代でこう変わりました。
| 段階 | 大食の中心 |
|---|---|
| V1 | 何でも食べるのに、何を入れても満たされない空洞 |
| V2 | 世界そのものを食べ尽くし、最後には白い空白だけを残す災害 |
| V2.5 | 飢えも力も残したまま、一つの残響だけを今は食べない存在 |
大食を描くなら、たくさん食べる人物を作ればいい。
最初はそんなところから始まりました。
でも3回作ってみると、重要だったのは量ではありませんでした。
食べても埋まらないこと。
食べ続けた結果、周囲までなくしてしまうこと。
そして最後には、食べられるものをあえて残すこと。
満腹になることではなく、空腹のまま一つだけ残せたことが、Beelにとって最初の変化でした。
ORIGINAL SIN / INTERACTIVE
あなたの中で「大食」はどれくらい混ざっている?
Beelの大食は、単にたくさん食べることではありません。何を取り込んでも満たされず、物も意味も周囲の世界まで飲み込んでしまう、埋まらない空腹です。
V2.5では、そんなBeelが初めて、食べられるものを前にして「まだ食べない」と止まりました。
では、あなた自身が何かを求めるとき、心ではどの罪が強く動き、行動を整えたあとには、どの罪が混ざっているでしょうか。
12の選択から、傲慢・嫉妬・憤怒・大食・強欲・色欲・怠惰・虚栄の8つを、心の配合と行動の配合に分けて読み解きます。
まとめ――世界を食べるBeelが、ひとつだけ残した
V1では、何でも食べる悪食でした。
でも、何を食べても満たされません。
V2では、その空腹が数億の蝗へ拡大し、Beelは世界そのものを空白へ変える存在になりました。
その設定が強くなりすぎて、V2.5では他のキャラクターと同じように誰かと関係を作ることさえ難しくなりました。
それでも『残響はまだ食べない』では、初めて一つの声だけを残しました。
空腹は消えていません。
黒い群れも消えていません。
Beelは今でも異形のままです。
ただ、
まだ食べない。
その一言が、今のBeelにとって一番大きな変化なのだと思います。
原罪シリーズを続けて読む
前の原罪:嫉妬 / Levi

王宮地下に置く案もあった人物:傲慢 / Rex

番外編:第8の罪・虚栄 / Vani




コメント