VaniにはV1がありません。
そもそも虚栄は、一般的な七つの大罪には含まれていません。最初の原罪シリーズでも作っていませんし、V2を始めた時点でも作る予定はありませんでした。
それが後から、第8の罪として突然シリーズへ入ってきます。
しかも面白いことに、虚栄のためにゼロから曲を作ったわけではありません。
別のタイミングで作って、まだ公開していなかった曲が、第8の罪という条件に突然ぴったりはまりました。
そこからMVを作り、現代のSNS、匿名性、評価、数字、見られる自分を詰め込んだ結果、生まれたのがVaniです。
そしてV2.5では、数字を笑っていたVani自身が、たった一人の反応の前で止まります。
この記事では、第8の罪として後から生まれた虚栄が、Vaniというネット上の人格になり、最後には数字では測れない一人分の反応に引っかかるまでを振り返ります。
VaniにはV1がない
原罪シリーズのV1では、色欲、怠惰、憤怒、傲慢、強欲、嫉妬、大食を作りました。
虚栄はありません。
V2も、最初は同じ七つの原罪を作り直すつもりでした。
きっかけは、アルパカ紳士さんがXで開催していた原罪をテーマにした企画です。
最初はV1で作っていた色欲の曲を出しました。その後、おかわりもOKという話になり、七つの原罪を改めて作り、MVまで制作したのがV2です。
ところが途中で、さらに第8の罪も募集するという話が出ました。
既存の七つではなく、自分で新しい罪を考える。
そこで調べて、選んだのが虚栄でした。
虚栄を考えていたら、すでに曲があった
虚栄を選んだものの、最初は少し困りました。
現代のSNSや対人関係を題材にすると、V1で作った嫉妬と近くなりそうだったからです。
どう違いを出すか考えていたとき、まったく別のタイミングで作っていた未公開曲を思い出しました。
まだMVも作っておらず、これから映像化しようかと考えていた曲です。
それが、虚栄というテーマにかなりはまりました。
完成したのが『Toxic Masquerade 〜偽善者たちの林檎〜』です。
Sunoで『Toxic Masquerade 〜偽善者たちの林檎〜』を聴く
175 BPMの高速J-Popを軸に、Alternative Rock、Vocaloid的な歌唱、重いギター、きらびやかなシンセを詰め込んだかなり騒がしい曲です。
歌詞で描いたのは、匿名の安全圏から他人を裁く人、薄い反応を集めて安心する人、同調圧力の中で正しさを演じる人たちです。
薄っぺらい「イイね」に群がって
安心したいだけだろ 本当は?
V1の嫉妬も現代的な感情を扱っていましたが、後から整理すると中心は違います。
嫉妬は、他人を見て自分との差を測る感情でした。
虚栄は、他人からどう見えるかを作り、その評価の中で自分を成立させようとする感覚です。

禁断の林檎と、スマートフォンの林檎
V2で虚栄を表す中心モチーフにしたのが林檎です。
ひとつは、アダムとイブを連想させる禁断の果実。
もうひとつは、現代のデジタル生活を象徴するApple社のロゴへの連想です。
スマートフォンを通して、投稿し、見て、評価し、裁き、承認される。
昔の禁断の果実を、現代では毎日手に持っているようなイメージです。
そこから、Vaniの林檎はデジタルな光を持つモチーフになりました。
Vaniの顔は、本当の顔ではない
Vaniの見た目で最も分かりやすい特徴は、顔を覆うモニターバイザーです。
画面には笑顔や表情を好きなように表示できます。
つまり電脳空間で見えているVaniは、ネット上で作られたアバターです。
でもMVでは、その派手な世界の外側も作りました。
本体側にあるのは、特別な研究施設でも巨大なサーバールームでもありません。
普通の一室です。
PCの前に座り、画面を見ている人がいる。
曲やMVを見ている自分たちと、それほど違わない人間です。
ネットの中では派手な顔を作れる。でも、その外側には普通の部屋と普通の人間がいる。
この二重構造をVaniの設定にしました。

MVそのものを、ネットの仮面にしたかった
この作品は、MV制作でもかなり思い出があります。
Vaniだけを動かすのではなく、それまでに作った七つの原罪の映像もMVの中へ入れました。
既存MVの一部をマスクし、電脳空間の画面や映像として表示しています。
そしてラストでは、そこまで見ていた派手な電脳世界から映像を引いていきます。
最後に見えるのは、普通の部屋に置かれたPCです。
つまり、それまでのMV自体が、そのPC画面の中で流れていた映像だったという終わり方にしました。
今ならトラッキングの方法もいろいろ考えられますが、当時は知識がありません。
なので、かなりの部分を手動で追いかけました。
画面の位置に合わせて素材を動かし、ずれたら直し、また合わせる。
大変でしたが、その手作業も含めてかなり記憶に残っているMVです。
Seedance 2.0で、電脳空間を走らせた

この頃、Seedance 2.0でパルクール動画を生成する例が話題になっていました。
それを見て、自分でもやってみたくなりました。
Vaniの舞台は電脳空間です。
なら、普通に立って歌わせるだけではなく、仮想都市を走り、跳び、飛び越える方が似合う。
そこでパルクールアクションにも挑戦しました。
音の方でも、書き出したWAVからボーカルを重ねてエフェクトをかけたり、リップシンクを調整したりしています。
曲だけでなく、生成動画、合成、トラッキング、音声加工までかなり手を入れた作品でした。
完成したV2のMVはこちらです。
V2.5――数字を笑っていたVaniが、数字を見る側になる
V2.5で作った曲が、『一人分の重さ』です。
V2では、VaniはSNS上の評価や正義、薄い反応をかなり攻撃的に笑っていました。
V2.5では、そのVani自身が画面の裏側へ回ります。
歌詞には、Carmillaの歌や映像を調整しているような場面が出てきます。
ただし、現時点ではVaniとCarmillaが直接会話したり、明確な関係を持っている設定にはしていません。
Carmillaは画面に映る側。Vaniはその裏で映像を整える側です。
歌い続けるカーミラの影
止まらない声を画面に残す
誰も知らない数秒の裏で
僕の指だけ忙しく動く
完成したものを見た人は、綺麗だった、すごかったと反応します。
でも、その裏側で誰が何を直したかまでは見えません。
数字になれば残る
数字がなければ消える
そういう画面を僕は
誰より知っている
Vaniは数字の仕組みを知っています。
だから反応さえあればいい、と考えています。
少なくとも、そう思っていました。
たった一人だけ、裏側を見た

そこへ、一件だけ少し違う反応が来ます。
途中から見やすくなりました
調整した人、ありがとう
大きな称賛ではありません。
名前すら残りません。
再生数や順位を大きく動かすほどの反応でもありません。
Vaniにとっては、本来なら誤差です。
一人分なんて、誤差なのに
順位も何も変わらないのに
数字にならないその一行が
空白だけを正確に埋める
それなのに削除できません。
固定するほどでもない。
保存する価値もないと言い聞かせる。
でも、画面を閉じたあと、また開いて確認します。
数字にはならない一人の反応が、数字で埋められなかった場所だけを正確に埋めてしまった。
見られることと、知られることは違う
『一人分の重さ』で一番重要なのは、この部分だと思います。
見られることと 知られること
どうやら同じじゃないらしい
V2のVaniは、見られるための顔を持っています。
モニターには好きな表情を映せる。
投稿の反応も数えられる。
何人が見たか、どれだけ反応したか、数字にすれば比較できます。
でもV2.5でVaniが引っかかったのは、たくさん見られたことではありません。
誰にも見えないと思っていた作業を、一人だけが見つけたことでした。
虚栄が消えたわけではありません。数字も評価も今まで通り見ています。ただ、その外側にも重さがあることを知ってしまった。
それがV2.5のVaniです。
V1がないからこそ、変化の始まりが違う
Vaniは、これまでの原罪キャラクターとは生まれ方が違います。
V1のテーマを作り直して人物になったわけではありません。
第8の罪という追加条件が先に来て、そこへ偶然、未公開だった一曲がはまりました。
そこからMVを作り、アバターと本体、電脳世界と普通の部屋、見る側と見られる側という構造を加えたことでVaniが生まれました。
そしてV2.5では、自分が批判していた数字の世界の裏側へ、自分自身が入っています。
| 段階 | 虚栄の中心 |
|---|---|
| V2 | 見られる自分を作り、正義・評価・同調・数字の中で自分を成立させる |
| V2.5 | 数字を扱う側になり、数えられない一人の反応に初めて重さを感じる |
Vaniは評価を捨てたわけではありません。
ネットから降りたわけでもありません。
相変わらず画面を見ています。
ただ、数字に変換できないものまで見えるようになった。
第8の罪として後から生まれたキャラクターが、最後には数字の外側を気にし始めた。
そこが今のVaniの面白さだと思います。
ORIGINAL SIN / INTERACTIVE
あなたの中で「虚栄」はどれくらい混ざっている?
Vaniの虚栄は、単に目立ちたい気持ちではありません。人からどう見えるかを整え、反応や評価を数字に変え、その数字から自分の位置を確かめようとする感覚です。
でも『一人分の重さ』では、順位を変えない小さな反応が、数字では埋まらなかった場所を残しました。
では、あなた自身が何かを選ぶとき、心ではどの罪が強く動き、行動を整えたあとには、どの罪が混ざっているでしょうか。
12の選択から、傲慢・嫉妬・憤怒・大食・強欲・色欲・怠惰・虚栄の8つを、心の配合と行動の配合に分けて読み解きます。
まとめ――一人分なんて誤差だったはずなのに
VaniにはV1がありません。
第8の罪を募集するという企画の追加条件から虚栄を選び、偶然まだ公開していなかった曲がそこにはまりました。
V2では、禁断の林檎と現代のスマートフォン、SNS上の仮面、匿名の正義、評価と同調をひとつのMVへ入れました。
顔を自由に作れるVaniの外側にいるのは、普通の部屋でPCを見ている人です。
V2.5では、そのVaniが今度は画面の裏側で誰かの映像を整えます。
誰にも見えないはずだった作業を、名前も分からない一人だけが見つけました。
順位は変わらない。
数字にもほとんど影響しない。
それでも消せない。
見られることと、知られることは違う。
数字の世界を誰より知っているVaniだからこそ、その一人分が重くなったのだと思います。
原罪シリーズを続けて読む
七つの原罪・本編最終:大食 / Beel

V2.5の画面に登場する人物:色欲 / Carmilla

SNS的な感情を別方向から描いた人物:嫉妬 / Levi




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